宝石箱のへ。
【 Route01×Lupin the 3rd 】





Side:Heroine

―――王家の宝は手元に還り、あの輝かしい日々の記憶も取り戻した。
…これ以上の幸福など、望むべくもない。

そんなことは分かりきっているはずなのに、目の前の彼の元を離れることが
何故、これほどまでに辛いんだろう?



「よかったなァ、これで大手を振って国に帰れるんだぜ。お姫サン?」



道化のような笑顔。

いつでも私に勇気と希望を与えてくれた笑顔が、
いびつに歪んで今にも泣き出しそうなのは…きっと見間違いなんかじゃない。



「ルパン、私…」



口を開いた私に、隠そうともせずルパンが顔をしかめる。
魔法使いのような彼にはもう分かっている、私が何を言おうとしているのかなんて。



「それ以上は言っちゃいけねェ」



今までに無い厳しい声音。

でも、今の私はそれが彼のやさしさだと知っている。だから、甘えちゃいけない。



…私の運命は、私が選ぶ。



「私、貴方が好きです」



愛しい思いが溢れ出しそうで、掠れたような情けない声になってしまう。

涙を流してしまったら、きっと彼は困ってしまうだろう。
だからせめて、目の前の広い胸に顔を埋めて堪えた。





Side:Lupin

「私、貴方が好きです」



分かってたさ、そんな事ァ。
もうずっと前から、彼女は俺に焼け付きそうな憧憬を抱いているなんて。

可愛いお嬢さん特有の、オトナへの憧れってヤツさ。
ほんの気の迷いなんだ、真に受けちゃいけねェ。大人気ないにも程があるだろ?


…そんな言い訳をしながら、自分の気持ちに必死にブレーキかけてたってのによ。



俺に抱きつくのか細い肩が震えてる。

生半可な決断じゃなかったろう、王家の肩書きを捨てて俺なんかと同じに身を落とすなんてのは。
それでも、そんな決断を下してでも、俺の傍にいたいって言うのか?



「、お前本当に…」



…いや、よそう。

こんな野暮な質問はするべきじゃねェ。


右も左も分からねェお姫サンが、しなやかに逞しくなっていったのを、
そんじょそこらのヤツじゃ敵わねェくらいイイ女になったのを、

誰より傍で見ていたのは俺なんだ。



「…お前の全てを、盗ませてもらうとするぜ?宝石箱の中のお姫サン」



パッと上げられた顔の目元にゃ、案の定ダイヤみてェな涙が縁取ってる。
瞳は俺を映すぴっかぴかの黒曜石、頬は透き通る薔薇水晶。唇なんてルビーの輝きだ。

ビロゥド張りの宝石箱にピッタリな、姫君。


大切に大切に隠されていた宝石。
宝石箱からお目当てのソイツを救い出す、興奮と荘厳とが入り混じる感情。

コイツを抱きしめるのは、何故だかそんな盗みのスリルに似ている。



「覚悟しろよ?…、お前はもう俺のモンだ」



ルビーの唇に、音も無くキスをくれてやる。

彼女の目から零れたダイヤの雫は、酷くあたたかかった。















憎しみをかす熱。
【 Route02×Daisuke Jigen 】





Side:Heroine

今でも夢に見る。あの渦を立てて両親を飲み込む、紅蓮の炎。

肉と骨の焼ける臭いが鼻の奥をツンと刺す。涙が出そうだ。



炎に巻かれ焼かれる肉塊を傍目に高らかに嗤う声も、
狂気に血走りながら爛々と輝く目も、

―――何故、この瞬間まで忘れられたというのだろう?



彼じゃない。

彼が、親の仇では無かったという安堵感よりも、
目の前に対峙するあの日のままの男の姿に、胸のうちが赤黒く塗りつぶされてゆく。



殺してやる。

殺してやる、殺してやる、殺してやる!



「うああぁぁああぁああッ!!」



嗚呼、廃倉庫に木霊する私の悲鳴は、あの日の男の嗤いに似ている。

何処か他人事のように考えながら、S&Wレディ・スミスの撃鉄を起こしトリガーに指を掛けた。
呼吸のように繰り返した動作だ。彼に教えられながら、その腕の中で。



ごめんね、次元。疑ったりして。

ちくりと胸を刺す痛みに気付かない振りをしながら、頭の中で呟く。



一発の銃声が、木霊さえ掻き消すように長く響いた。





Side:Jigen

風に煽られたようにばったりと男が倒れる。

0.3秒。コンバット・マグナムは、既に低位置の腰に戻っている。



―――間に合った。

アイツに抜き撃ちで負けるつもりなんざサラサラねェが、今回ばかりはホッとしたってのが本心だ。



「…どうして」



やっとトリガーに掛けた指から力を抜いたアイツが、だらりと銃の重さに任せるまま腕を下ろした。

は馬鹿じゃねェ、目の前の親の仇が地獄に堕ちたことくれェ分かってる。



「…ッどうしてよ!?」



ぼろぼろと、狂気の抜けた黒目がちの瞳から大粒の涙が零れる。


思えば、コイツの泣き顔なんて見るのは初めてだったな。

存外キレイなツラしてんじゃねェか。泣いてるってのも、この女ならソソるモンがある。
場違いなことを考えながら、加えたシケモクを埃っぽいコンクリに吐き捨てた。



「テメェにゃ人殺しなんざ出来ねェ」



ずっと感じていたことを口にした。

確かにコイツは裏社会のプロだ。しかし、人を殺すにゃキレイすぎる。
悔しさに零れる涙を、尖った舌先で掬う。…こんな涙を流せる女が、殺しなんざするモンじゃねェ。



「…俺がさせねェさ、一生な」



白い耳に囁いてやれば、腕の中でゾクリとの背筋が震える。

そいつが恐怖なのか悦楽なのかは俺にゃ知ったこっちゃねェが、
突き放す素振りすら見せないことを勝手に答えと受け取ることにした。



「…次元、」
「黙れ。…野暮ってモンだぜ?」



何か言おうとする艶やかな唇が放つ言葉を聞きたい気もするが、
今は何より、コイツを喰らい尽くすほどに口付けたくて堪らねェ。



「愛してる」



免罪符のように呟いて、目を瞑る女と唇を重ねた。















未来予
【 Route03×Goemon Ishikawa 】





Side:Heroine

はにかむような笑顔、壊れ物でも扱うように触れる指先。
震える手で私の薬指にはめられた、つるりと華奢な硝子の指輪。

幼い私の目に、それが宝石以上に輝いていたのは彼の純粋な思いゆえだろう。



『いずれきっと迎えにゆく。そのときは、どうか拙者と結婚してくれ』





「そんなこともあったね」


今の私には小さすぎる指輪を手のひらにのせ、頬を緩める。



「ようやく思い出したのか」

「何よ、五右エ門が教えてくれればよかったんじゃない」



呆れと落胆とが半分、といった様子で苦笑する五右衛門に抗議してみるも
“御主が忘れていては意味が無い”と諭されてしまう。

なるほど確かに、と思う反面…私が気付くまで素知らぬ振りをするのもどうかと思う。



顔を見合わせて互いに笑っていたが、ふと五右エ門が声を潜めて右手を袂(たもと)に差し入れる。
…彼がそこに大切なものを仕舞うクセも、今になれば懐かしいものだった。

一体何を取り出すのだろうと覗き込む目線の先に、手のひらに収まるほどの小さな小箱。



「あの約束は、まだ有効だろうか?」



白い、節くれ立った指先が私の左手をそっと導く。

あの日の高揚感が、フラッシュバックのように戻ってくる。





Side:Goemon

「…拙者は紋付き袴で良いと」
「バァカ、ドレスの姫君エスコートするにゃコレだろ?」
「も白無垢にすれば良かったろう」
「やぁよ、には私の見立てたドレスを着てもらいたかったんですもの!」



肌にまつわるような洋装独特の感触に、余計な緊張感が加味されている気がする。

相変わらずあられもなく胸元を露出さする形のカラードレスを纏う不二子に
はたしての晴れ着を見立てさせて良かったものだろうかと不安が込み上げる。



「五右エ門」



びくり、と疚しいことも無い筈なのに、背後から名を呼ばれ居住まいを正す。

どうしても胸をよぎる懸念に、思わず恐る恐るとを振り返る。



「…ッ!」



顔が熱い。
夢にまで見た彼女の花嫁姿に、全身の血が沸騰するような感覚を覚えた。

華奢な身体の線を強調しながらも、ふんわりと柔らかい花を思わせるドレスも
不二子の見立てにしては上等だ。



「…何か言ってくれないと照れるんだけど?」
「え、ぁ………美しいと、思う。見惚れてしまうほどに」



隣でルパンが何やら朗々と彼女を称える言葉を連ねているが、拙者には此れが精一杯だ。
それでもが心から幸せそうに笑うから、目頭が熱くなる思いがした。




「…、どうか拙者と…」
「ルパァ〜ン、皆纏めて御用だ〜!」


ガクッ、と拍子抜けして肩を落としてしまう。

あまりに聞きなれただみ声。遥か後方にはけたたましいサイレンを鳴らすパトカーの群れと
窓から身を乗り出しメガホン越しに叫ぶ銭形。


「銭形の野郎、パトカーで参列たぁ気合入ってやがるな!」
「次元、笑い事では御座らぬ!」


誓いの言葉を遮られた気恥ずかしさも相まって、けらけらと笑う次元に思わず声を荒げるも
目の前のもつられたように笑うから それ以上の怒号を吐く気力も無くなってしまった。




「蜜月には、些か賑やか過ぎる気もするが」
「いいよ、私達らしくって」


「…そうやもしれぬな」




ふわりと横抱きにを抱える。
どうやら、“予定外”そのものが拙者達の予定に組み込まれているらしい。



逃げるように駆け出しながら、波乱に満ちたこの先を思い また2人で笑った。










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本当は各ルートのバッドエンド2つもシナリオが出来ているので上げたかったのですが、
ヒロイン死ネタもあるし、なにより9本も一気に書く気力は無かったです(苦笑)

少しでも、皆さんがコレを読んで幸せになってくれますように。
そしてルパンを、次元を、五右エ門をもっと好きになってくれますように。