※この夢小説には性的描写が含まれます。 年齢制限は特に設けませんが、閲覧は自己責任でお願いします。「…月を一人で占めて居るのか」 不意の声に然して驚きもしなくなったことに、多少の微苦笑と一種のむずがゆさを覚えた。 「そうよ。今日は、月が明るいから」 宿屋の一室である。 江戸では名の通ったこの宿に身を留めているのは、あのいやに歌舞いた不可思議な男への礼だ。 人ならざるモノを斬るということは、存外有難がる輩も多いらしい。 …斬っているのは、正鵠を射るのならば背後に立つ男なのだが。 縁側に足を投げ出し、初夏の宵闇の空気を心身へ浴びる。 じと、と僅かばかり毛穴へ吸い込まれる空気が湿っぽいのは、朝方降っていた霧雨の所為か。 しかしそれは不愉快なものでもなく、寧ろ浄化された空気は清々しくもある。 少しばかり気の早い蟋蟀(こおろぎ)が、啼く。 きしり、と 敷居を跨いで真新しい畳へ褐色の足をつく。 足袋と巻晒しを鬱陶しく思ったのだろう。素足には紅椿の爪があかあかと。 きしり、きしり。 たぽり、たぽり。 此方へゆっくりと近付いてくる足音に重なる柔らかい水音。 …まったく何処からくすねて来たのか。 「月には酒と、決まっているだろうが」 「誰が決めたのよ、そんなこと」 ぎしり。 縁側の艶やかな木目が、男の重みに啼く。 とんと軽い音を立てて置かれたのは、持ち運びを容易にするために口の括れへ縄をくくった丸い酒瓶。 そうだ、この男は日本酒を好む。 酒米独特の風味が好いと言うが、此方へ分け与える気などあって無いのだろう。 「狡いな。俺にも月を、分けてはくれんか」 答えなど毛頭聞く気も持ち合わせてはいない。 どかりと腰を下ろす態度は尊大でこそ無いが、その意思はありありと見えた。 ぽん、と鼓を打つにも似た音が闇におざなりだ。 酒瓶の口からは清流の如きそれが、猪口になみなみと。 「見ろ」 端的な言葉にも気を損ねはしない。 彼はそういう性質なのだ。 言われるがまま猪口を覗き込むが、何を指しているのかが掴めない。 「違う、此処からだ」 手招きをする彼に疑問符を浮かべたまま、膝はついたままに更ににじり寄る。 …そのまま、男の胡座の上へ導かれる。 自分を小さくか弱いと形容する気は毛頭無いが、この大柄な男の前では赤子も同然だ。 然して労力にもならぬ僅かな力で、大きくあたたかな座椅子に身を沈める羽目になった。 「…あ」 視線の下にある猪口には、月が棲む。 成る程彼は此れを指していたのだ。 「こうしてな、月を呑み干すのだ」 風情というものが有るだろう、少しばかり得意げな口調は存外幼い。 この男はこういう男だ。 「金色さん」 「何を、」 「月を躯に飼っているから、金色さん」 闇の中にぼうと浮かぶ紋。金箔よりも明るく、煌びやかだ。 空の猪口を持つ手の甲へ、指を這わす。なめし皮のようにすべらかだ。 金の紋は、月のようにとおくない。 「ああ、でも夜叉でも好いかも知れない。金色の夜叉だから、金色夜叉」 「酔うているのか」 違う、酒など口にしていない。 いいや、お前は酔っている。 下らない問答だ。然しこの時さえ、いとしい。 拘束具の太い腕は、心地の良い重みだ。不快であるはずの生温かささえ、気にも留めない。 「…ああ、」 月が。 薄曇の向こう側へ月が身を隠す。 闇が、濃くなった。 「明日は、降るだろうか」 「多分、少しね」 蟋蟀は草葉の陰へ帰ったか。僅かばかりの湿った不穏な空気に、葦やら蓼(たで)やらが さわさわと鳴るばかりだ。 呼吸の音さえ、隠せはしない。 「…月を飼いたいと、思わんか」 「思うけど、今夜は無理でしょう?もう月が映り込まない」 残念だ。 彼の言うところである風情を堪能するのも一興だったのに。 空の猪口に一瞥をするが、とうに興味など失せていた。 「…飼わせてやろう」 「どうやって…ん」 胡座に身を収める上半身を半ば無理に後ろへ向かせ、唇を合わせられた。 褐色に映える青の唇から覗く犬歯は黒。 …深くなった闇を、頭の隅で思い返していた。 「…月を、その身に注いでやろう」 「風雅な言い方をしてるけど、要はこういうことなのね」 「…不平不満は今言っておけ」 いいえ、なんにも。 縁側の板に擦れる頭が少し痛いなんて言わない。 だって元来の彼は夜叉なんかではないのだ。ただ、少しばかり待てのきかない忠実な、いぬ。 精一杯の優しさを、いつも。 「月を飼わせてくれるんでしょう?」 「そうだ、お前は天道であればいい」 「…そういう台詞も言えるのね。求婚の常套句じゃない」 「…矢張り酔っているな、お前」 やや諦め混じりの口調に、けたけたと笑い出したいのを堪えた。 褐色の肩越しに、朧月を見た。 ああそうだ、月はただ意地悪く隠れたのではない。 これからの行為のために、身を潜めてくれたのであって。 深くなった闇に感謝を想い、どちらからともなく口付けを交わした。 「…は、ぁ」 闇に浮く金の紋の手は、目線のやや下ふくらみに御執心だ。 やわやわとした愛撫は、その手の様に不釣合いにやさしい。 宿の浴衣は可愛くないから、と 自分の其れを着ていたのは正解だったかも知れない。 常に変わりないこの男に抱かれるには、あまりに色気も風情も無い。 …霞の掛かっていく意識の中で、ぼんやりと思うことは有耶無耶にして無意味だ。 「っふ、ん…ぁっ、ぅ」 僅かばかり込められた力に、二藍(ふたあい)の木綿下のふくらみは歪。 形を変える其れが楽しいのかはたまた掌に主張をする突起にか。 男が何もかもを見据えたような目の色で、にいと意地悪く笑うのが多少腹立たしくもあった。 「もう、硬い」 言われなくてもそんなこと知ってる自分の身体だ。 そう言ってやりたくも口からは吐息ばかりが零れる。腹立たしい。 夜気に押し開かれる袷から零れ落ちる、白。 しめやかな空気に触れる感触。僅かに息を吐く。 「…ぁ、あっ」 ぬらり、と。 外部からの刺激に敏感に呼応する頂を包む、あおの舌。 見ていられない。きゅうと目を閉じ耐えるが、触覚ばかりが瞼裏の暗闇に浮き彫りになる。 あの黒の前歯で突起を柔らかく食み、あのあおの舌がその尖りを押しつぶすように嬲る。 見ていなくても、わかる。 刺激に対して充血し張り詰め硬くなる其れは、男の逸物にもよく似ていると前に言っていた。 男は私の闇の向こう側で笑って、いる? 「…気持ちが悦い、か?」 当たり前の事をこの男は何度でも訊く。 恐らく其れは意地の悪い考えからではないのだろう。ああそうか。不安、なのだ。 少しばかり声を抑えてきつく目をつむっていれば、苦しいのか不快なのかと無駄な逡巡を その銀の髪の奥でしているんだろう。 何処か遠慮がちな口調や態度が、酷くいとしい。 こくりと小さく頷いてやれば、夢中になって尖りにむしゃぶりつく。 獣の愚かさというよりは、赤子のような執着だ。 いとしく、思う。 「…何を、笑っている?」 「すきだなあって、ぁ、っは…思って」 「…今更だ」 滲む視界の中で、染む褐色を見た気がした。 「…此方も、もう悦い塩梅か」 「あ…っひ、ぁ」 局部へ指が這う。 浅葱の帯は器用に抜いていた。何時の間に。 二藍の裏地、青の着物に裸体を広げる様は酷く淫靡なんだろう。 知ってる?この襲色目(かさねいろめ)は桔梗というんだって、そう自慢したかったのに 脱がされては何の意味も無い。 …対する男が、かっちりと着込んだままなのが妙に気恥ずかしかった。 くちゅり。 ずぐ、ずぐ。 「ぁっ、いや、まって」 「何を、待てと」 “お前の此処は、卑しく俺を誘っているぞ。” 脳裏に木霊する声。膣壁を擦る紅い爪。…瞼裏に焼きついた、金。 ひとつひとつが悦と楽を誘ってやまない。 増やされた指に、胸の中で箍(たが)がまたひとつ弾け飛ぶ。 「…雨、が」 「…降り出したようだな」 さあ、と地上を覆う柔らかな音。 上気した耳に心地が好い。 神が地上へ無数の糸を落とすその様を一目見ようと、顔を僅かばかり横へずらそうと身じろぐ。 …と、視界が不意に黒に染む。 「…何?」 「俺以外のものに…」 一瞬の、間。 其の後。 「…俺以外のものに、興味を持つな」 「…っぷ…あなた、子供?」 「五月蝿い」 「ふっ、はは、あははっ…あ、ぁんっ」 遠慮もなく笑う様に苛立った男の仕業か、または拍子に膣内を締め付けたか。 未だ進入を許したままの長い節くれ立った指が、背筋を粟立たせた。 「…子供は、こんな事をしない」 「そ、いうとこがっ…ぁふ、子供だって、いって…ぁ、ひんっ」 ぐぷ、ぐぷ。 ずちゅ、ぐち。 雨音に、外気を抱く蜜の音は不釣合いに淫猥だ。 「…は、ぁっ…」 「どうした、まだ足りんという顔だな」 ぐぷりと音を立てて、三つ指が蜜を掻き出すように体内から逃げる。 饐(す)えた香を放つ蜜を、さぞ美味そうに、見せつけるように。あおの舌が、舐る。 「…たり、ない」 「…ほう」 いつもなら、此処で返答を渋るのだ。 其れをすんなりと口にした事に、多少の動揺があったのだろう。或いは惑いか。 深紅の目が、ほんの少しだけまあるく見開かれる。 「…ほら」 濃い蘇芳(すおう)の下履きを脱ぎ、そっと白い上体を支え起こす。 後頭部に褐色の手が回って起き上がされる。漸く擦っていた自分の頭が随分と痛いことに気がついた。 彼なりの配慮なのだ、此れは。 「ゆっくり、腰を下ろせ」 胡座をかく男の上に膝立ちの姿勢をとる。 腰に回る手は挿入を導くものではあるが、決して力は加えてこない。挿れさせたいのだ。 鼓動が空気を伝って耳に届きそうなほど、血管の浮き上がった逸物。 反りあがって、期待するように痙攣をする様は見ているだけで眩暈を覚える。 しかし、ずっとこうしているわけにもいかない。…ほしい。 「んっ…ぁ、ふ」 火傷を錯覚しそうなほど、沸騰した血液が凝縮した其れに手を添える。 猛る楔の括れまでを身に収めれば、あとは滑るように腰が落ちる。 「あ、あ、あ…」 「…っ、く…きつい、な」 対面をする形にある男の眉間には、深々と皺が寄せられている。 決して不快ではない。悦楽に吐精を耐える顔だ。 其れを知っているから。ほんの少しだけ、優越を覚える。 「んっ…随分と、積極的、だなっ」 身を上へ上げて、再び腰を落とす。 単調な技巧など無い動きですら、反った肉棒の質量にかかれば痛いほどの恍惚だ。 子宮口を抉られるような感覚に、きゅうと締め付ける。 その締め付けに肉棒が表面積を増し、刺激を強める。悪循環? 違う、これは悦楽の連鎖。 「はぁっ、は…ぁ、んはぁっ」 受身ばかりの愉悦に飽いたのか、それとも主導を奪う為か。 腰を下ろす間合いを狙って、下から腰を突き上げられる。 「やぁっ、だめ、もう…」 「はぁっ…、く、ぅ……っ…」 そうだ、この男は何時でも果てる前にこうして名を呼ぶ。 あるときは縋るように、あるときは熱に浮かされたように。 呼びたい。 しかし、呼ぶ名を知らない。…もってもいないのかもしれない。 体面の形で、貪りつくように唇を重ねた。 のた打ち回る舌を互いに絡め、酸素を奪い合い、唾液と二酸化炭素を共有する。 目を閉じる余裕すら、もう残ってはいない。 ああ。 金色。 金色の、夜叉。 「…私っ、だけの…月」 髪を振り乱して涙を散らす。 男の汗の匂い。饐えた精液の匂い。雨の、匂い。 視覚は金に侵され、触覚は互いの体温を、聴覚にはただただ喘ぐ声と水音ばかり。 「あぁっ、も、もう…あ、あ、あああっ」 「…っ…、…」 二度、三度と抉られる感覚の先に、果てを見る。 注がれる白濁は、どろどろと体内を巡ってそのまま全身を犯していくのではないだろうか。 そうだ私は、からだの中に 月を、飼う。 霧の掛かる意識の中で、最後に見たのは褐色の肩越しの金の雨だった。 金色夜叉 (目覚めた後にそれをしったら、あなたはおこるかしら) --- 初名前変換小説で裏って……冴城珀唖様への捧げものでした。(デフォルト名も“珀唖”) ハイパーは夜叉だよね、って話で盛り上がったのでそのまま採用。 …裏小説と銘打っておきながら、全然エロくない。と軽く凹んでます。